社会不適合者のシネマ日記

映画・商品レビュー

『落下の解剖学』(2023)/生々しい法廷ドラマ/感想

はじめに

フランスの女性監督ジュスティーヌ・トリエによる作品です。カンヌのパルム・ドールを受賞しており、批評家からの評価は良さそうです。

あるフランスの山荘から夫サミュエルが落下死し、サミュエルの妻ザンドラには、疑いの目がかかります。ザンドラは裁判所で追及されてしまいます。果たして真相は・・・。

感想

  • P.I.M.P ・・・序盤では、50セントの「P.I.M.P」(歌詞なし)が流れます。ザンドラの夫がなぜこの曲を聞いていたかが、キーのひとつになっています。歌詞を調べてみたところ、結構下品な歌詞でした。ちなみに、P.I.M.Pは「売春斡旋業者」を意味するようです。*1
  • 極めて具体的なセリフ・・・なぜ極めて具体的かは、映画を観ていただけたら分かります。主人公トリエと男性の関係は、本作の監督家トリエと、脚本家のアラリとの関係のようです。嫌になるほど生々しい夫婦喧嘩のセリフは、2人の実際のエピソードを基にしたとしか思えません。
  • 傍聴しているかのよう・・・裁判所では検察や トリエ監督はドキュメンタリー映画出身だからか、ドキュメンタリー風の演出もありました。それによって、実在感が出ています。脚本には刑事事件専門弁護士の指導があり*2、リアリティの裏付けがあります。検事や検察はザンドラを追及しますが、その過程でジェンダーや性的関係でさえ公開されています。
  • 記憶は不正確・・・弱視である少年 は、1度目の証言と2度目の証言に食い違いがあります。無意識に記憶が変わってしまうことはありますよね。記憶は案外不確かなものです。
  • 解剖・・・サミュエルとザンドラ、どちらに共感すべきか迷ってしまいます。人は複雑であるのに、単純化して評価してしまうことに気付かされます。その点で、人間というもの、そして私自身を解剖しているような気分になりました。

  • 「スヌープ」の演技が凄い・・・殺伐とした本作で唯一の癒やしが、ボーダーコリーのスヌープです。特殊な演技をしています。もちろん、動物の安全に十分注意したとのこと。どう撮影したかは、この動画→Behind the Scene: How the Dog from 'Anatomy of a Fall' Learned to Play Dead on Screen - YouTubeで解説されています。

ジュスティーヌ・トリエ監督って?

ジュスティーヌ・トリエ(Justine Triet)は、フランスの映画監督、脚本家、編集技師です。彼女はフランス国内外で高い評価を受けており、数々の賞を受賞しています。

著名な作品:

    • 2013年の長編デビュー作『ソルフェリーノの戦い』は、第66回カンヌ国際映画祭のACIDプログラムで上映され、批評家から高い評価を受けました。
    • 2016年にはロマンティック・コメディ・ドラマ『ヴィクトリア』の脚本・監督を務め、セザール賞でノミネートされました。
    • 2019年にはコメディ・ドラマ映画『愛欲のセラピー』がカンヌ国際映画祭でプレミア上映され、パルム・ドールを争いました。
    • 2023年には法廷スリラー『落下の解剖学』でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞し、女性映画監督としては史上3人目の快挙を達成しました。
  • アカデミー賞ノミネート:

ジュスティーヌ・トリエは、映画界でその才能を発揮し、多くの賞を受賞している実力派の監督です。

微妙なところ

音楽はあるものの、劇伴はないので、人によっては眠くなってしまうかもしれません。152分は少々長く感じましたね。トイレに行くことを忘れずに笑

まとめ

まるで裁判所で傍聴しているかのような、初めての体験です。真犯人を突き止めるというよりは、落下死事件までの過程を楽しむ映画でした。腹落ちしない謎があり、また観に行こうと思います。