社会不適合者の日記

映画・商品レビュー

『ズートピア2』はなぜ“生々しい”のか? 動物・政治・そしてフォント問題まで⋯映画感想(ネタバレ含む)

左:ローカライズされたポストカード 右:終盤のシーンを切り取った、大きめの入場特典
『ズートピア2』が大ヒット上映中だ。公開からわずか数週間で世界興収10億ドルを突破し、日本でも100億円を突破したという本作(1/5時点)。ファミリー向けの「かわいい動物たちの冒険」と思っていると、その作り込みの深さと、一部の“居心地の悪さ”にぶん殴られることになる。今回の観賞メモを整理してみた。
<以下ネタバレ含む>

動物描写の「本気度」

まず圧倒されるのは、動物のリアルさだ。コアラの手(前足)に親指が2本ある構造や、ビーバーが「半水生で哺乳類と爬虫類の仲介役」として描かれる生態など、動物ネタが随所に仕込まれている。新キャラのヘビ・ゲイリーが持つ「熱によって特殊なものを見る能力」も、実在のピット器官をベースにしたもののようだ。ヘビは変温動物で寒さに弱いという設定も終始一貫している。イノシシ・ホグボトムの嗅覚は犬に匹敵すると言われるほど敏感で、本作でも事件解決のキーとなった。一見ギャグシーンのようだが、トカゲ・ヘイスースの水上走行も、本当らしいことが分かる*1
『バンビ』(1942)の制作時に本物の動物をスタジオに入れて観察させたというのは有名だが、その伝統は本作でも健在だ。彼らの一次情報を重視する姿勢を見習いたい。

『ズートピア』(2016)のブルーレイ特典映像では、ディズニー・アニマルキングダムや、アフリカでの調査の様子が確認できる。

「ウェザーウォール」は何のメタファーか

本作のキーとなるインフラ「ウェザーウォール」。
表向きは「全動物のための快適な空調システム」だが、その実態は、体温調節が苦手な爬虫類を排除し、居住区を分断する装置だった。しかも、その真の発明者は爬虫類の女性(アグネス)であり、支配層の哺乳類(リンクスリー家)が彼女の功績を奪い、歴史を改竄していたことが明かされる。これは、現実社会における植民地主義や構造的差別を想起させる設定だ。マイノリティの知恵や労働を搾取して成り立つ繁栄。前作もかなり政治的なメッセージを感じたが、その“生々しさ”は、前作の人種差別テーマよりもさらに鋭い。

ジェンダーと“セクシーすぎる”ガゼル

ポップスターのガゼルは今回も議論の的だ。くびれや露出を強調したデザインと、マッチョなトラのダンサーを従えたパフォーマンスは、子供向け映画としてはかなり挑発的だ(前作の衣装と比較してほしい)。「性的対象としての記号」と「自立した女性像」の間で揺れる彼女の姿を見て取れる。いや、そもそもガゼルの性別とは。

グローバル戦略と「アジアの干支」

本作が中国市場で爆発的にヒットしているのは偶然ではない。
重要キャラのゲイリー(ヘビ)に中国系俳優を起用したこと、そしてヘビを「嫌われ者」ではなく「誤解された存在」として描き直し、赤いスカーフなどの意匠を持たせたこと。更に馬・ウィンドダンサー市長も登場する。これらは干支文化を持つアジア圏への明確なアピールだ。リベラルな社会批評と、したたかな市場戦略が同居しているのが、今のディズニーらしさと言える。

あの違和感の正体…「日本語フォント」問題

作品世界に没入したいのに、現実に引き戻される瞬間があった。
それが、日本語ローカライズの文字デザインだ。

万年筆で署名されたはずの特許証が、無機質な角ゴシック体で表示されていたり、新聞の見出しだけ日本語で本文が英語のままだったり。手書き風の英字デザインがあんなに美しいのに、日本語になった途端に事務的なフォントになってしまう「クソダサフォント問題」は、残念ながら本作でも健在だった。

また、何度か観て分かったことだが、序盤の税関職員のシーンでコンテナに入っていたものは、どうやらマタタビのようだ。

字幕版を観れば済む話だろうが、ここは次回作で改善してほしいものだ。

カメオ出演とイースターエッグ

小ネタ探しも楽しい。

ゲームクリエイターの小島秀夫監督が、モグラの警察官「ポール・モールデブラント」役で日本語版カメオ出演しているのは驚きだ。クロウハウザーとのからみで二言ほどであり、作中では不憫な扱いのキャラクターであった。

トカゲ・ヘイスースは服役経験のあるダニー・トレホが演じている。「悪役」として有名な人物だ。

また、雪の迷路でのチェイスシーンは、映画『シャイニング』のクライマックスへの明白なオマージュ。音楽やパウバートの狂気じみた演技は、あの名作を思い起こさせる。
中には『レミーのおいしいレストラン』思わせるシーンも。

まだ解決していない「食料問題」――“じゃぱりまん”的解決は可能か

最後に残るモヤモヤは「食」だ。
『ズートピア2』は「捕食関係を克服した社会」を描きつつ、作中では魚が食料として登場するため、「じゃあ肉食動物は何を食べているのか?」という獣人世界あるあるの疑問がどうしても浮上してしまう。

特に肉食?のはずのニックはアイスだけを食べ続けているのか。パウバートはキャットフードや魚なのか。

ここで思い出すのが『けものフレンズ』の“じゃぱりまん”というアプローチだ。
作中では、フレンズたちが共通して食べられる食料として「じゃぱりまん」が繰り返し登場し、視聴者に「みんな何食べてるの?」問題をあまり考えさせずに世界を成立させている。

追記:監督による2015年のポストを発見した

(上記2つのポストの翻訳)『#Zootopia』の世界では、肉食動物は植物性たんぱく質と昆虫を食べています。Bug-burga(バグバーガー)は彼らのお気に入りのレストランです。
初期のバージョンの映画では、彼らは魚を食べていました(魚は“進化”しておらず、しゃべらない存在として扱われていた)。でも、それだとこの世界のルールが分かりにくくなってしまったんです。

グッズにバグバーガーを発見

以下のニックの乗る車両を見てほしい。バグバーガーのマスコットがあり、更には"BUG BURGER"の表記が確認できる。

【公式】ディズニーストア.jp | ズートピア2 プルバックカー セット Stunt Car より

パウバートは、パウバートだ

カプセルトイ「ならぶんです。」のパウバート

先日インターネットを徘徊していたら、パウバートの年齢設定が話題になっていた。
どうやら「監督のポスト由来で◯代らしい」というやつだ。
ここで宣言しておくが、私はパウバート推しである(突然の告白)。  
推しの年齢を知った途端に「じゃあこういう性格だろ」「年齢不相応だろ」と決めつけるのは疑問に感じる。
◯代前半だろうが、それ以外だろうが、パウバートの良さは変わらない。パウバートへのエイジハラスメントは受け入れがたい。

サウンドトラック

ガゼルの歌う「Zoo」も良いのだが、あえて劇伴の方を紹介する。
マイケル・ジアッキーノは

  • Mr.インクレディブル
  • レミーのおいしいレストラン
  • カールじいさんの空飛ぶ家

等を担当した、ピクサー映画と関わりが深い作曲家だ。私の個人的なお気に入りは以下の2曲。

おわりに:次は「空」へ?

エンドロール後、ジュディの元に舞い落ちる一枚の羽根。
哺乳類、爬虫類ときて、次回作ではついに「鳥類」が参戦することを示唆してる。

空を飛ぶ彼らは、地上の分断をどう見ていたのか。

本作は娯楽性とメッセージを両立した良作だと思う。続編への期待が、今から止まらない。

 

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*1:グリーンバシリスクの水上走行- YouTube