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映画『ロボット・ドリームズ』におけるライブラリーミュージックの分析

※ご注意:この記事はややマニアックな内容を含みます。映画音楽、特にライブラリーミュージックに興味のある方向けです。

ライブラリーミュージックとは?その概要と歴史

「ライブラリーミュージック(Library Music)」は、映像や放送向けに用意された既製音源のことです。英語では「プロダクションミュージック(Production Music)」とも呼ばれます。

世界初の商用音楽ライブラリーは1927年にイギリスのDe Wolfe社によって設立されました。1950〜70年代にかけて黄金期を迎え、イギリスのKPM社はその中心的存在です。特にKPMに所属していたKeith Mansfieldは、洒落たインストゥルメンタル楽曲を多数制作し、テレビや映画の音楽文化に強い影響を残しました。

近年では、AI作曲技術やロイヤリティフリー音源サービスの台頭により、従来型のライブラリー音源の需要は減少傾向にありますが、それでもレトロな音楽的質感や独特の味わいを求める映像作品には重宝されています。

映画制作でライブラリーミュージックを使用する一般的な理由

映画や映像作品でオリジナル音楽ではなくライブラリーミュージックを使用する理由として、以下のようなポイントが挙げられます。

  • コスト削減とライセンス手続きの容易さ

  • 多様な雰囲気づくりと時間短縮

  • 著作権問題の回避・音楽選択の自由度

以上のような理由から、特に低予算映画やテレビ番組、ドキュメンタリーなどでライブラリーミュージックは重宝されてきました。

『ロボット・ドリームズ』の音楽構成とライブラリーミュージック使用場面

『ロボット・ドリームズ』(パブロ・ベルヘル監督, 2023年)は全編にセリフが一切無い異色の長編アニメーション作品です。しかし「アース・ウィンド&ファイアー」の名曲「September」をはじめとする既発のポップミュージックや劇伴(オリジナルスコア)が、言葉以上に豊かな感情を物語に吹き込んでおり、音楽面が高く評価されています。

「脚本の最初の草稿では、すでに『セプテンバー』(アース・ウィンド・アンド・ファイアの『September Song』)が入っていました。なぜなら、犬とロボットがセントラルパークでローラーダンスをするためのシーンに必要な曲だったからです。...プロデューサーたちは最初は喜びませんでした。音楽の権利は高額で、ポップ・ミュージック史上最も人気のある曲の一つを使おうとすれば-それは高価な曲でした。しかし、私たちが費やしたお金の一円一円に価値がありました。...確かに、音楽は重要な要素でした。...セリフがない時、音楽はキャラクターたちの声になるのです。」

— Pablo Berger(監督インタビュー / VFX Voice*1

本作では1980年代のニューヨークが舞台となっており、劇中で流れる既存曲は当時のNYの多文化な空気を表現するため、キャラクターや場面ごとに意図的に使い分けられているのが特徴です。例えば、主人公の犬(ドッグ)とロボットが友情を育む場面では彼らの「テーマソング」として最重要曲「September」が繰り返し流れ、ラスカルおじさんのお気に入りの曲としてウィリアム・ベルのソウルナンバー「Happy」が登場します。

こうした有名曲やポップミュージックと並んで、本作では複数のライブラリーミュージック音源が劇中に使用されています。確認できるだけでも以下のようなライブラリー楽曲がクレジットされています。

  • “Oh Yes Baby I Love You So” – Ervin Litkei(APM

  • “Your Sweet Love” – Richard Myhill(KPM)

  • Après Ski” – Fred Tornow & Eric Frantzen(Coloursound)

  • “Easy Money” – Frank Maston(KPM)

  • “Quiz Wizard” – Ed Welch(KPM)

  • “Beloved Secrets” – E. Dozor(Koka Media)

  • “The New Explorers (a)” – Keith Mansfield(KPM)

これらはいずれも劇中で流れる既存曲の一部であり、一般的なヒット曲ではなく制作音楽ライブラリー由来のストック音源です。街中のラジオや店内BGMなど、環境音楽として自然に溶け込み、1980年代NYの空気を補強しています。

ライブラリーミュージックの内訳と割合(全47曲中)

判定基準

  • 「プロダクション/ライブラリー・ミュージック」 = KPM、Universal Production Music など “ストック曲専業レーベル” に収められている既成インスト曲

  • オリジナルスコア = アルフォンソ・デ・ビリャロンガ作曲による “Robot Dreams (Original Score)” 名義の新規劇伴

  • 既成ポップ/クラシック曲 = Earth Wind & Fire や Booker T. など一般リリース曲

区分   代表曲例
オリジナルスコア   Building Robot, Vivalding at the Park ほか
既成ポップ/クラシック   EW&F “September”, Reagan Youth “I Hate Hate!” ほか
ライブラリーミュージック   Rick Turk “Focus”, Keith Mansfield “The New Explorers”, Richard Myhill “Your Sweet Love”, Fred Tornow & Eric Frantzen “Après Ski”, Abaji & Claude Sacre “Bamboo Wok”, E Dozor “Beloved Secrets”, Rick Turk “Holidays and Leisure”

割合計算:10/ 47 ≈ 0.213 → 約23 %

ポイントサウンドトラック全体の 6 割がビリャロンガによるオリジナルスコア。既成楽曲の中で純粋なライブラリー音源はおよそ 23 % だが、監督は TV/ラジオ放送の定番 BGM を“スパイス”として忍ばせ、80年代メディア環境のレトロ感を強調している。

『ロボット・ドリームズ』でライブラリーミュージックが多用された理由

  1. 予算配分とコスト面での判断 – 有名曲「September」などに高額な権利料を投入したぶん、その他のシーンをライブラリー曲で賄いコストバランスを確保。インディペンデント映画であることも関係か。

  2. 1980年代NYのリアルな音風景の再現 – 当時テレビや街角で実際に流れていたようなライブラリーBGMを使用し、時間旅行的な臨場感を演出。

  3. セリフ無しの物語を音楽で補完する無声映画的アプローチ – シーン転換や感情の機微を細かく支える豊富なBGMパーツが必要だった。

  4. 演出的遊び心とオマージュ – 過去のアニメやコメディが既成BGMを流用していた歴史へのリスペクト。


まとめ

『ロボット・ドリームズ』でライブラリーミュージックが多数使用された背景には、費用対効果の最適化1980年代NYの多様な音楽文化をリアルかつ効果的に表現する演出意図の両面がありそうです。セリフに頼らず“音”で綴られる物語を成立させるうえで、ライブラリーミュージックは名脇役として不可欠な役割を果たしています。


主要参考文献

  • 原見夕子インタビュー*2

  • Pablo Berger 監督インタビュー(Letterboxd / VFX Voice)

配信情報(U-NEXT)

『ロボット・ドリームズ』は 2025年5月1日(木) より U-NEXT で独占先行配信中です。
劇場公開を見逃した方や、もう一度じっくり音楽表現を味わいたい方にとって、
配信開始は絶好の機会となるでしょう。

 

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