社会不適合者のシネマ日記

映画・商品レビュー

『窓ぎわのトットちゃん』(2023) 重い/作画の感想など/元ジブリスタッフも参加

あらすじ

時は戦前・戦後。ちょっと裕福な家庭のトットちゃん(黒柳徹子)は、多動傾向のせいで通常の学校では受け入れてもらえません。偶然トモエ学園の小林校長たちと出会い、トットちゃんは自信を取り戻していきます。

おすすめポイント 作画がいい

制作は、ドラえもんなどを手掛けるシンエイ動画です。キャラデザは金子志津枝氏が担当します。

原画は約12万枚にもなり、「ドラえもん」作品にも多く携わってきた八鍬監督も「アニメ業界でも異例の枚数」と語るほど。*1

原画枚数はどれだけ手間がかかったのかの指標になります。非常に手間がかかったようですね。通常のパートも良いものの、見どころは特殊な場面のイメージシーンです。

イメージシーン 作風 スタッフ
イメージシーン1 クレヨン風 神戸佑太さん など
イメージシーン2 水彩画風 加藤久仁生さん など
イメージシーン3 切り絵風 河原雪花さん など

イメージシーン1は、トットちゃんが教室である廃電車に乗り、電車が想像力で動き出すファンタジーな世界が魅力です。

イメージシーン2は、泰明ちゃんがプールに入った感動が表現されています。『窓ぎわのトットちゃん』書籍版の表紙絵である、いわさきちひろ氏の作風を継承しているように思います。

出典:『窓ぎわのトットちゃん』(黒柳 徹子,いわさき ちひろ):講談社青い鳥文庫|講談社BOOK倶楽部

イメージシーン3は、泰明ちゃんの今後を切り絵で示唆しています。

その他には、トットちゃんと泰明ちゃんがタップダンスするシーンは素晴らしいです。厳しい言論統制で、歌も歌えない。そんな中で言葉を使わず、明るい雰囲気を作ってみせる。このシーンは『雨に唄えば』(1952)を意識したと監督が明かしています。

エンドロールには、見慣れた名前がありました。

ササユリは、舘野仁美氏が関わる研修所でしょうか。この方はジブリで動画検査などをされていた方です。

更に、ジブリの背景美術で活躍した男鹿和雄氏の名前もありました。

気になったところ①リアルなキャラデザ

監督の趣向で、意図的にデフォルメが排除されています。*2顔や身体はリアルだし、頬や唇は赤くなっていて、まるで戦前のイラスト風です。このあたりは評価が分かれそうです。

また、キャラデザや監督が映画『ドラえもん』関係者なので、作画や演出がその方面に引っ張られたところはあるかもしれません。

気になったところ②朝日新聞

トモエ学園の近くには、朝日新聞の販売店があるという設定です。時々画面には朝日新聞の販売店が映ります。朝日新聞が登場するだけならまだしも、販売店も映り込むのは少々違和感があります。

まとめ

全体の感想としては、正直に言うと泰明ちゃんのくだりがエモーショナル過ぎたところはあるでしょう。書籍版とは構成が異なることにも注意が必要です。

私は戦前戦中の日常を描いた『この世界の片隅に』を連想しました。

ユダヤポーランド人の音楽家が登場する点で、『戦場のピアニスト』とテーマが似ていると思います。

だいぶ重たい作品ですが、アニメーションや多様性を啓発する面で、一見の価値がありそうです。

 

 

 

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