全体的な感想
非常に権威のある女性の指揮者(リディア・ター)が、あることをきっかけに転落してしまいます。
序盤はクラシック用語満載の、高尚な会話がひたすら続きます。まずい、映画のチョイスを間違えたなと思いました。タイパ重視の方だったのか、序盤で途中退席者を数人観ました。
私はこの作品のラストを見て、彼女は開放されたと思いました。トップレベルの音楽団の指揮者をするという権威はなくなりました。しかし、音楽の純粋な楽しさを思い出したのでしょうか。彼女はベトナムの小さな音楽団を率いることになりました。そして予想の180度違った展開になりました。ベトナムの音楽団は何かを演奏し始める場面でエンドクレジットになります。
そして、エンドクレジットには「MONSTER HUNTER」の文字があるではありませんか。どんな意図があったのかは分かりませんが、考察するのが面白いです。
この映画は解説はほとんど無いので、分かりにくい映画です。分かりやすさでいえば、マリオ映画の対極にあります(マリオ映画の批判ではなく)。
毎週映画館に行くような人にはおすすめしたいです。そういった方は、能動的に映画を観ていると思うからです。視聴者を突き放すような、ノーラン作品が好きな方にもおすすめです。ここで、ターを演じたブランシェットの言葉を見てみましょう。
ケイト・ブランシェットはさるインタビューで、映画『TAR/ター』についてこんなコメントを残している。
「この映画はロールシャッハ・テストのようなもので、暗示しつつも決して確定されない情報に対して、人々がどのような判断を下すかを示しています」
意図的に抽象的な作品にしているので、ターをどう評価したらいいのか難しいのです。私はターに対して全般的に肯定的ですが、なかなかエグいこともしています。二面性のある人間をどう評価するか。過去の偉大なクラシック作曲者は、功績ばかり語られていないか?モーツァルトや、哲学者ショーペンハウアーは人格者だったのか? あらゆることを問う映画です。
『ター』を観たあとに、この作品について数日間も頭から離れませんでした。その映画についてずっと考え続けてしまいました。
ポップコーンの笑い話
上映中に隣の女性の物音が、気になってしまいました。ポップコーンを食べる音などです。もちろん、ポップコーンを食べることを咎めるつもりはありません。ただ今作のように、無音に近いシーンがある作品では、騒音が気になりました。今作はポップコーン向きではありません。
ポップコーンは原価が低いです。これはネガティブな意味ではなく、それだけ映画館に利益があるということです。今後、利益のしっかり見込める大作しか上映しなくなってしまったら悲しいです。映画館の未来を考える上で、ある意味コスパの悪いはフードは必要不可欠だと思うのですが……
サントラのレコード版を購入した
公開を待ちわびていた『TAR/ター』。ベルリンフィル初の女性首席指揮者がパワハラで失脚する物語。指揮者役のケイト・ブランシェットがキレッキレ。独語でリハーサルする佇まいだけで5億点。大手レーベルのグラモフォンが出した映画CDにケイト指揮とクレジットされて驚いた。アバドのパロディらしい。 pic.twitter.com/H5BhrwB3le
— Hajime T (@hagetakax) 2023年5月16日
クラシック音楽に興味がなくても、黄色いタイトルのアルバムを見たことはありませんか。グラモフォンは歴史あるレーベルですが、彼女のCDも販売されています。これはフィクションではありません笑。
やたらと読みにくいヒドゥルさんは、『ジョーカー』(2019)の作曲を手掛けた方です。
私は以下のレコードを購入しました。レコードがプレイヤーが無いため、飾りになってしまっていますが笑。
2回目の鑑賞をした感想
2回目はTOHO日本橋の大箱で鑑賞しました。相変わらず無音の時間が長く、息の詰まる瞬間が多いです。1回目はターに好意的でしたが、2回めはターの否定的な点が目立ちました。例えばチェリストの選定にブラインドテストをするが、好きなチェリストの靴を見て、そのチェリストを合格させる。オルガについて贔屓しすぎる。クリスタの自殺事件をもみ消そうとする。などです。善悪どちらにも取れるように、作られているようです。
これはドキュメンタリーなのか
もちろん、今作はフィクションですが、現代の問題をいくつも盛り込んでいます。
トッド・フィールドの緻密な脚本とケイト・ブランシェットの圧倒的な演技により、ターという人物が実在するかのように錯覚します。フェミニズムやキャンセルカルチャーが中心の、クラシック音楽業界の闇に切り込んだ作品です。